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片瀬家の系譜・番外 Archive

異説・片瀬家の系譜<番外1・第4幕>

「――お待ちしておりました」

冷たささえ感じさせる声で、女神が告げると、儀式の間の扉が開いた。

どういう理由なのかは知らないが、今回の交神の儀ではイツ花の奉納舞は無い。
一族側の、交神の儀に臨む者――嵐を迎え入れると、扉は固く閉ざされた。

 

儀式の間にいる嵐と、かの女神は一体どんな表情で会話を交わしているのだろうか。
交神の儀での出来事は、基本的に本人同士にしかわからない。それを尋ねるのは野暮というものだろう。

 

祈りが終わり、扉から出てきた嵐に、別段変わったところは見られなかった。

「うーん。何つーか複雑。……てかさー、ユキ君マサ君、本当にコレで良かったの? 昼子様ってさ、二人のお母さんなんでしょ一応」
「嵐、オレ達をいくつだと思ってるんだ? 母恋しって年齢でも無いだろ」
「あーそっか! 嵐くんのお子が来たら、その子って僕たちの弟か妹ってことになるんだよねー。男の子? 女の子?」
「未来を写す姿見で見たカンジの顔立ちだと……あれは多分、男の子だなー。はは、俺やっぱ、女の子と縁薄いのなー」
「そうなんだ。でも男の子でも女の子でも、嵐くんに似てると良いよね」
「いや俺に似るより昼子様に似てくんなきゃ、強い子になんないっしょ」

「ううん。嵐くんは強いよ。能力がどうこうじゃなくて、心――とも違うんだけど……ごめんね、何だかうまく言い表せないよ」

 

溜息をつく嵐とは逆に秋征は妙に嬉しそうだった。
兄弟のような存在である嵐を迎えただけでなく、その嵐との間に、血の繋がった本当の弟が生まれるというのが嬉しいのだろうか。

(――参ったな。私には、秋征が何を考えているのか、本当に解らん)

――奥義を継がなくて良いなら、僕、交神なんて絶対に行かない!

高い素質を見た初代の判断により、双子としては例外的に秋征にも子を残させようということになり――では結魂相手か交神相手を――片瀬の男子としては例外として、本人に相手を選ばせようと姿絵の一覧を持って行ったところ、秋征は姿絵や釣書をぶちまけるように投げ捨て、秋幸にしがみついていた。

それが、つい2ヶ月程前の出来事だというのに。

やはり、嵐を養子に迎えたことで――閉じた双子の心は少しずつ、他に向かって開かれているのだろうか。
(春駒殿の与えた『傷』も、呪いと共に解けてくれれば良いのだがな――)

来月はいよいよ、一族の悲願だった「朱点童子打倒」を果たすことになる。
八ツ髪と朱点は手強い。
かの鬼は、雷獅子の術を得意としているようだ。
攻撃面での若干の不利は否めないが、水と風の数値の伸び方を見るに、おそらく嵐は朱点の術には耐えられる筈だ。
術よりも、奥義などの物理攻撃を重視している片瀬家では、どうしても水や風の素質を伸ばすのはおろそかになる。

おそらく、初代が縁組の相手として嵐を選んだのも、朱点の打倒前に交神を命じたのも、片瀬に足りない力を求めるという意味合いも強いのだろう。
(――朱点を倒した『その先』が、あるということだろうな)

朱点を倒し、全てが終わるのであれば嵐を交神に行かせる必要は無い。
口数は決して多くは無いが、嘘やかけひきが苦手な片瀬初代の人柄から察するに、朱点を倒したあとに何が起こるのか――具体的に知らされてはいないのだろう。

そして、初代は何故か――森香と、果林のところにも、縁談話を持ち込んだのだった。
(薙刀の奥義を受継ぐ果林は兎も角、何故私なのだ?)

「当主様、まーたそんな難しい顔しちゃって。前にも言ったでしょ。美人が、台無し」

そそくさと祈りの間から退席した双子と対照的に、場に残っていた嵐が森香に声をかけた。

「いや――何故私なのだ? と、思ってな」
「縁談ですか。そんなのお相手に訊くしかないっしょ。選んだ理由なんてお相手のおウチの人にしかわかんないんだし」
「そういえば、君は結魂したことがあるのだったな?」
「正確に言えば、分身として宮城家に渡った俺ですけどね。残念ながら、俺自身の記憶じゃないのと……片瀬の玄関くぐったときに、色々欠けてる部分があるらしくて。よくは憶えてないから、あんまり参考にならないですよ」
「そうか――」
「うーん。でも……そうだなー。子供って、良いもんですよ。玲様がお嫌でなければ、受けたら良いんじゃないですか? 何人居ても、いとおしいって思えるもんだし、俺らが呪い解いたら。――その子は多分、家や血筋に縛られることもなくなる」
「君は――」
「なんてね。ヤだなー、コレじゃ俺……すんごい子持ちってか、子沢山? 親ばか父さんみたいな発言じゃん? 今の、忘れてください」

ほんの一瞬、真顔になった嵐の表情を見て――森香は初代の不可解な言動の意味や、嵐の抱える運命をほんの少し理解できそうな気がしていたのだが。
当の嵐本人の茶化しによって、まとまりかけていた考えは霧のようにかき消されてしまった。

「ま、耶馬くんや、ユキ君マサ君が一緒だから。必ず、朱点を討ち取って帰って来ますよ。――だから玲様。あなたもどうか、幸せになってください。一人の女性として」
「全く……君は、本当に『風』の性質そのままのような男なのだな。止まりかけていた片瀬の家に、新たな流れを吹き込んでくれた」

血筋を請われても、当主である森香は、結魂を受けることが出来ない。
ならばと、宮城の当主が提案した策は『森香に子を授かるように結魂を執り行い、授かった子を養子として宮城に送り出し、宮城家で当主となった凌紅の養子として迎え入れる』というものだった。
時期を見計らい養子縁組を執り行えば、森香との間に授かった子が当主の子として宮城の家で受継いだ血を絶やすことなく家系を繋ぐことが出来る。

家と血筋を縛る制限の穴を巧みについた、ある意味裏技とも呼べる方法だが、そこまで自分を想ってくれる者がいるという事実は、正直森香も嬉しかった。

「私も覚悟を決めた。宮城家との縁談、受けよう。そして、朱点との因縁に、決着をつけよう。――新たに授かる、子らのために」

異説・片瀬家の系譜<番外1・第3幕>

片瀬家の系譜<番外1>

「来た早々で悪いが、嵐。君には、地獄に行って貰う」

「当主様の命令とあれば、何なりと」

悲願達成を目前に迎えた片瀬の家。

嵐の推測は外れではなく、黄川人の言う『素敵な庭への鍵』を集め終えた後、突如として出現した赤い印へと踏込むと、そこは地獄の入り口だった。
三途の川を越えて、針の山か地の池を越え、砂漠を抜けると朱点童子の待つ修羅の塔への入り口がある。
討伐隊は、これまで幾度も地獄の中と、京の家とを行き来していた。
地獄の中を徘徊する名も無い鬼達を狩れるようにならなくては、到底朱点になど挑めない。

当主となったものには、一族の能力が数値として『視えて』しまう。
嵐本人が『この時期に迎えるほど高い能力ではない』と言うのが頷ける、言い方は悪いが中途半端な数値だった。
際立って高いのは、風に関わる数値だろうか。
秋征が使いこなすことが出来ずにいる『名弓雲破り』での属性が上乗せされれば、地獄の鬼に対しても渡り合えるかもしれない。

だが、現状のまま、朱点に挑むのは難しい。

つい先日、朱点と八ツ髪に敗走を喫した経験のある森香は、それが痛いほどよくわかっていた。
朱点に挑む為には、地獄に滞留して時登りの笛で時間を巻き戻し、何度も何度もただひたすらに鬼を狩り続けて体力その他の数値の底上げを図るしかないのだ。

「秋幸、秋征。付いて行ってくれるな? それから、一匹でも多くの鬼を狩れる様に、今月はみさおを隊長にする」
「うん。嵐くんは僕が守るから安心してくれていいよ」
「……男に『守る』って言われても嬉しく無いなあ。女子に守られるのはもっとイヤだけどねー」
「嵐、実家じゃどうだったか知らないけど、後列に下がっててくれよ。ウチじゃ基本的に弓は後方支援担当だからな」
「了解。我侭言ってもいいなら、女子のみさおさんを前列に立たせて俺は後列っての、いささか信条に反するんだけど……実力不足ならまず、足をひっぱらないように務めないとね」
「大丈夫よ。先手さえ取れれば、わたしの丘鯨で殲滅できない雑魚はほぼ、いないから」

現在家に居る女子で唯一、来訪時に「男より逞しい」と言われなかったみさおだが、いざ討伐となれば、女だてらに重たい大筒を担いで豪快に戦う。
しかし、こうして座敷に居れば髪や瞳の色を除けば市井の娘と変わらない、年頃の若い娘だ。
軽防具しか付けられず、防御面に若干の不安が残る大筒士は親玉と戦うには不向きと判断され、片瀬家では初陣の者が能力値を底上げする際に同行することが多かった。

つまり、今回の出陣では決着をつける気が無いのだと、討伐隊に指名された双子には解る。

「それと、言いにくいのだが……これも、初代からの命令でな。嵐、討伐から帰ってきたら『交神の儀』に臨んでもらう事になる。奉納点が6万点台になるまで帰ってくるな」

「……8ヶ月の俺を養子に迎えた理由はそれでしたか」

奉納点で、相手が誰であるのかは察しがついているのだろう。一瞬、ハッとした表情になった嵐は、かすかに苦笑した。
元服後は心身共にバランスの取れた時期でもあるが、身体能力を底上げして戦わせることを考えるのであれば、もう少し若い者を養子として迎えた方が良いに決まっている。
迎えた直後から第一線で戦うことが出来るほど高い能力を有している者ならば、それでも構わないのかもしれないが、育て上げる必要がある者としてはやや不向きだ。

「他の年長者の方を差し置いて、っていうのは正直気が引けるんですけど」

「いいの。わたしも森香姉も気にしないし。片瀬の家訓として、男は結魂や交神に自分の感情挟む余地無いの知ってるから。逆に『ちょっと気の毒かしら』って思うわよ」

片瀬の家訓として、個人的な感情で相手を選ぶのは女子の特権とされている。
男児は、奥義を継承しない場合のみ相手を選ぶことが許されるが、他家から『血筋が欲しい』と乞われれば絶対に断れない。
槍家系の跡取りでない秋征は、比較的自由が選べる身だ。その理屈で言えば、嵐も選択の自由が適用されてもおかしくは無い。

「おそらく初代は、『迎えた血筋が絶える事に対する懸念を払拭しておきたいのだろう』と私は思うのだが……すまないな。呪いを解くことが出来る目前にあって、このような頼みをしなくてはいけない当家の不甲斐なさを――恨んでくれても構わない」

「嫌だな、玲様。お美しい方の頼みをきかない訳にはいかないし、恨んだりなんてしませんってば。だから、そんな風に眉間にシワ寄せるのナシ! 美人が台無しですよ」

「ぷっ……あははは!」
「そうそう、女性はやっぱり笑っている方が――って、どうしたの? ユキ君……と、マサ君も」

何がそんなにおかしいのかと、森香を不思議そうに見ている(というより固まっている)双子に、嵐は思わず声をかけた。

「いや、珍しいものが見れたなーというか」
「当主様を女扱いするヤツも珍しいけど、こんな風に笑った顔が見られるのも珍しいぜ」
「というより、片瀬の女は総じてイツ花ちゃんに『その辺の男より逞しい』なんて言われちゃうもの。だから、当主様じゃなくても、こんな風に嬉しいこと言ってくれるの嵐くんが初めてよ。秋幸君も秋征君も見習いなさいな」

目の端にうっすら涙を浮かべるほど笑った森香を見て、討伐隊の面々は三者三様の感想を述べる。
みさおに至っては、双子を軽く窘めていた。

「ああ、こんなに笑ったのは子供の頃以来じゃないかな。――さて、嵐」
「何でしょう」
「戦装束だがな、まだ仕立てあがって無くてな。悪いが、片瀬の色で仕立て直した、君の装束が出来上がるまでは前のを使ってくれないか」
「前の? 俺はソレでも構いませんが……態々仕立て直してもらうのも気が引けるし、片瀬の先人のどなたかが以前使っていた余りでも、差し支えないですよ」
「特別製なのだろう? 君のは。それに先人の余りでは君や秋征には着丈が合わない」

どのみち仕立て直しに出さなければならないのなら、新しく仕立てる方が職人の手間も省けて一族の士気も上がるだろうと森香は踏んでいた。
それに、嵐の戦装束は通常の仕立てと違い、羽織の内側に物入れがあったり、表にも装飾が施されている一点ものを好んで着ていた――と森香は伝聞で知っていた。
残念ながら、当主の間に挨拶に現れた嵐は、戦装束から着替えてしまっていたので実物を見る機会は無かったのだが。

「あ、嵐くんの特製戦装束だよね? 当主様、せっかくだから同じの僕にも仕立てて欲しいな」
「マサ、あのど派手な装束、お前も着る気かよ?! 当主、オレのは仕立て直さなくて良いからな!」

『先人の使っていたもので良い』という嵐の反応も予想外だったが、双子の反応もまた森香の予想の範疇を超えていた。

 

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異説・片瀬家の系譜<番外1・第2幕>

片瀬家の系譜<番外1>

「嵐の命、本日只今より
玲様にお預けいたします。存分にお使いください!!」

異国から来た青年は、当主の顔を正面から見据えてそう告げた。
嵐が面を上げると、澄んだ鈴の音と共に派手な羽の髪飾りが揺れる。
深緑の髪に、琥珀の瞳。双子の艶やかな若葉色や鬱金色とは趣を違えているが、心に風神の守護、技に土神の守護を得た片瀬の双子――秋幸、秋征と並ぶとまるで本当の兄弟のようにも見える。

初代・片瀬玲のたっての願いで迎えた養子は、現当主・森香のみに見せられた書付や、実家での幻灯等から思い描いていた姿とは大きく印象が異なっていた。

(もっとこう――くだけた挨拶をするのかと思っていたが……警戒されてしまったかな)

「初めまして、嵐くん。ユキ君と並ぶと、僕たち三つ子みたいだね」
「よろしく、嵐。おれの事は秋幸でもユキでも好きな方で呼んでくれていいぜ」

(おや? 秋征の方が懐くのは珍しいな。あの「座敷わらし」がねえ……)

髪色を見て判るとおり、心に風の加護を受けた双子は、何を考えているのかわからないところがあり、当主にとって常に悩みの種でもあった。
討伐に出せば、お互い傷を負うたび回復を進言してくる。

しかし、隊長が体力半分持っていかれるような事があっても、放っておけば治るとばかりに隊長狙いやら、やたら効果が派手な攻撃術を提案してくるのだ。
どうやら、双子の世界は互いが互いを中心に回っているらしい。
そんなに心配なら片方を留守番にするかと言ってみたら、唯一品の槍や、先祖が心血注いで育てた特注剣を質入して家出しようとする有様。
つまり、引き離せないのだ。

その双子が、初めて自分達以外に関心を持った。
これは、喜ばしい変化なのかもしれない。

「じゃ、マサ君とユキ君でいいかな?」
「うん。あ、そうだ当主様。せっかくだから嵐くん囲んで幻灯撮ろうよ」
「あ、ああ。では街へ出ようか」
「……明日は雨かしらね」
「しっ! 滅多なことを言わないでくれ。双子が機嫌を損ねたら、当主の言うことも聞かないんだから」

嵐を挟んで、三人並んで歩く双子を追うように、片瀬の現当主・森香とその妹・果林が並んで歩く。

通常、長子が兄・姉となるのだが、「双子に限り後から生まれた方が兄または姉」という家訓に従い、片瀬の家では槍家系の二子秋征が兄、薙刀家系の二子森香が姉だ。
序列に従い、現当主は森香なのだが、風の双子は当主の威厳をもってしても御しがたい。

 

街並が気になるのか、嵐は先刻から周りを見回している。
ふと、彼は振り返って森香に問うた。

「ひとつ聞いても良いですか?」
「ああ。何かな」
「失礼を承知で申し上げますが。……片瀬の家は、悲願成就を胸に、ひたすら邁進していらしたのだという印象を受けました。大願成就も近い、この時期に俺を迎えた理由は何でしょう」

やはりきたか、と森香は息を呑んだ。

「君を迎えたのは片瀬初代の願いだ。私も詳しくは知らない。すまない……それより、『大願成就が近い』『片瀬が悲願に向けて邁進した』と判断したのは何故かな?」
「街並です。武具屋や雑貨屋、宗教設備は充実してますが、その他の所謂『娯楽』に関わる部門への投資は切り捨てていらっしゃるのではないかと」

品揃えを見れば復興の度合いが知れる。
武器防具の充実振りは、片瀬が商業部門への投資をそこそこしてきたことの証だ。

宗教部門は、一族が子を授かるのに必要な「交神の儀」の奉納点に直結しているし、刀鍛冶を呼ぶことが出来れば戦力の大幅な増強に繋がる。
漢方薬屋の品揃えを充実させれば討伐で多少の無茶もきく。

つまり、優先的に資金を投じてきたのが討伐に直結している所に限られている――故に『悲願成就に向けてひたすら邁進した一族』と判断できる、という訳だ。

「娯楽を切り捨てているというのが何故解る?」

「俺の実家――水月の初代は……そうですね、一言で表すなら『変わった』方なんですよ。『武具など拾い物で充分、そんな血腥いものにつぎ込む余裕があるなら、娘達が美しく着飾って人生を謳歌できるように着物を仕立てるか、幻灯枠が追加されるように娯楽部門に投資しろ』と、言ってのける剛毅な女侍です――ほんの少しだけ、貴女に雰囲気が似ています。……玲様」

そこまで言って、嵐は苦笑する。そして、視線を森香の顔から再びぐるりと街並へと見渡し――告げる。

「その水月初代の方針に従って復興させた街並と、この街並は大いに違っています」

それに俺は、朱点打倒のみを掲げて生きた者達の街を一度、見たことがあるから――と、嵐は一瞬だけ、懐かしさと淋しさの入り混じったような微笑を見せた。

「嵐くん? 当主様も何か難しい顔してるね」
「当主様、あんま細かいこと気にしてたらハゲるぜ」

足を止めた嵐に気付いて、双子も振り返る。
「ユキ君、淑女に向かって『ハゲる』は無いでしょー!」

嵐は笑って、秋幸の肩を叩く。

「あとね、当主様。ユキ君とマサ君から聞いたんですよ。術を覚えるために、ふたりは『朱ノ首輪』使ったんでしょ? 主力の二人に、家出されるリスクを賭けてまで覚えさせたい術があるってことは――相当、切羽詰ってる。だけど、ソレを実行するだけの見返りが期待できる――ここまで来たら『悲願成就』しかないよね……って、思ったんですけど。違いますか?」

(一を見て十を見通す、か――成程な。初代が求めたのはこれか)

くだけた口調の方が作っている彼なのか、固い口調の方が作っている彼なのか、森香にはまだ見極めが付かない。
だが、表情を見る限り、秋幸や秋征に対して話しかけるときや、その逆の時。嵐の良く変わる表情は、作った表情ではなく内から出てきた感情そのままの、歳相応のものに見えた。やはり、歳が近く、考えることも似ているものには心を許すことが出来るのだろうか。
少なくとも、双子には多少なりとも打ち解け始めているのではないか――と森香は思った。
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異説・片瀬家の系譜<番外1>

無限空間の黒。
天も地もわからない空間に、巨大な水鏡が設えられている。
水鏡の前に立つのは、水浅葱色の髪に琥珀の瞳を持つ――運命の一族の始祖。

「嵐。いるのだろう? すまないが手を貸してくれ。君の力が必要なんだ」

「はいはい居ますよー。……で、何ですか初代様ー?」

りん、という鈴の音と共に、深緑の髪に羽飾りをあしらった青年がどこからともなく姿を現す。

「俺が此処にこうしている間、透ちゃんてばスヤスヤ寝こけちゃってるワケでー。
こんな頻繁に、俺を呼び出してて大丈夫なの? 初代様」

魂の奥津城に、生きている者は出入りすることが出来ない。
高羽透の命数は未だ尽きて居ないので、この場所に現れるとき――透は必然的に「嵐」になってしまう。

「問題ない。我々の体感として時の流れがあるように感じるだけで、現世での時間は止まっている」
「成程。……ってか、俺さぁ? 今更だけど、アンタのこと尊敬しちゃうなー。そんな過酷な役目、よく引き受けたよね」

永劫にも感じられる時を、血を分けた子らを何度も何度も見送るなど正気の沙汰では無い――と嵐は評する。

「……だから私は選んだのだよ。人ではない、永劫の時を生きる者を――共犯者としてな」

目を伏せ、穏やかな静謐をたたえた表情の水月初代を見て、反射的に嵐は「しまった」という表情を浮かべる。
が、水月初代が再び視線を戻す前に、表情を取り繕うのは忘れてはいなかった。

「――私のことは良い、本題に入るぞ。
すまない嵐、君にはまた異国を旅して貰わねばならんのだ」

「嫌だなーって言ったら、どうなっちゃうのかナー?」

「君が本気で嫌なら、無理強いはしない。
私が先方に断りを入れれば済む話だからな――ただ」

水月初代は妙に歯切れが悪い。
短い付き合いでは無くなって、嵐にもなんとなく予想がついてしまった。

「天来の娘たちが、嘆き悲しむことになるだろう」

「はー……しょうがないなあ。
可愛い女の子のためなら断れませんー! で、今度はドコに行けばいいワケ?」

「片瀬の家に。――きついぞ」

「あんたがそう言うってコトは、よっぽど過酷なんだろうねー。……片瀬初代って、美人?」

「いや、男だ。面影は……そうだな。君と生前とても仲の良かった、侑に似ている」

「やっぱ断ってイイ?」

運命の神様というものが居るのなら、洒落が強すぎていっそ悪意すら感じる。
が、此処まで来ると逆に笑えてくる――と嵐は苦笑した。

「――すまんな、凛音殿。我が力及ばず、君の一族の助けになること、叶わず……だ」

嵐と向き合い、背を向けたまま呼びかける水月初代の言葉に応えるかのように、水鏡の水面が揺れる。

「いえ、良いんです。
――三つ目の呪いを回避する方法は、既に見つけてありますから」

鏡の向こうから響くのは、少年独特の高く済んだ声。
水月初代が鏡の真正面に立っているので、衝立のようになって、嵐には少年の顔を見ることが出来ない。

「三つ目の呪いって何だよ。そんなモノがあるなんて俺、聞いてないぜ」

「我々の一族には無かった呪いだ。
君が知らないのも無理はない――天来の家ではな、『男児は全て、生まれて一月も生きることが出来ない』のだよ」

「私は、天の助けにより一年と数ヶ月の命を得ました。
しかし――男にしか効力の無い呪いなら、女児のみを授かるように交神の儀を執り行えばよいのです。
ただ……それだけのこと」

「そんなことが可能なのか?」

「あ、こら! 嵐――凛音殿の顔を見るな」

色々と衝撃が大きすぎて、嵐の口調から軽口を叩くだけの余裕が消えている。
思わず身を乗り出して、水鏡の向こうに居る凛音に近づこうとして、水月の初代に阻まれそうになる――が。

水月初代の制止は僅かに間に合わず、嵐はしっかりと『異国の始祖』の顔を見てしまった。
現れた面影を見て、嵐は零れ落ちそうなくらいに目を見開く。

「遥?!」

「嵐殿、ですね? お初にお目にかかります。
私の名は『天来凛音(アマキ リンネ)』。あなた方と異なる国の、運命の一族の始祖……です」

金糸雀色の髪に向日葵色の瞳を持つ少年――異国の『運命の一族の始祖』だという少年は、嵐にとって、侑以上に縁の深い面影を宿していた。
ふわふわとした少し癖のある髪を、切りっ放しにしたような髪型に、ぱっちりというよりはくりっとした目が印象的な、愛らしい少年。
嵐によく似た、風の守護が現れた髪色が自慢だと言っていた息子――遥に、生き写しだった。

「――初代様……だから、『凛音さんの顔を見るな』って、言ったんだな」

他人だとわかっていても、黒蓉によく似た面影のある忍を見捨てられなかったように。
凛音の面影に遥を見出してしまえば――同じように、嵐は凛音を見捨てられる筈が無い。
ならば最初から、凛音を使えば嵐に頼みを聞かせることなど容易い――しかし、水月初代はそれをしなかった。

「はは、何つーか……俺も遥も、よくよく『養子縁組』に縁があるのな」

水月家で嵐がその生涯を閉じた後、是非にと望まれて遥は異国へと渡った。
美しく強い姉達や、元気いっぱいの可愛い妹に囲まれて、異国の遥も幸せそうだった。
水月の家も、養女に迎えた紅音が呼び水となったのか……今では念願の女児に恵まれている。
覚悟を決めた嵐は、水月初代の琥珀の瞳を正面から受け止めた。

「行くよ、片瀬の家に。――でもその前に、いっこ訊いてもイイ?」
「何だ?」
「片瀬の初代サマは、何で俺をお望みなワケ? 悪いケド俺、男相手にどうこう……は正直御免被りたいな」

恐る恐る、といった面持ちで問う嵐に、心配するなと水月初代は微笑んだ。

「稚児というわけではないから安心していい。今回送り出す君は、成人男子の姿だからな。
――『運命の一族の始祖』のみが、此処『魂の奥津城』に出入りできることは、君ももう理解しているだろうが」

「あ、そういやそうだっけ。ん? ……でも、だったら何で、ココにその片瀬初代が居ないワケ?」

納得しかけて、嵐はふと気がついた。
そもそも片瀬初代がこの場に居れば、話はもっと単純だっただろう。

「片瀬の『氏神の社』から、3柱の氏神を天来の社に移す儀式の準備に入っていてな――今、此処に姿を現すことができないのだ」

「成程、交換条件ってワケか。
――つまり、天来に氏神を分社する交換条件として選ばれたのが俺――ってことでイイのかな?
……って、俺って神様三人分?! マジでー?!」

女性の前だとつい見得を張ってしまう嵐だが、さすがにそれは過大評価では無いのかと目を見張る。

「ああ、2柱はどちらかというと、君と炎が幸せな生涯を過ごせたことへのご恩返しのようなものだ。
――まぁ、私も正直……奉納点3万点台の氏神と、君とで釣り合いが取れるのかは少々疑問ではあるがな」

「能力で言うなら間違いなく、炎ちゃんとか遥の方でしょ? 何で俺?」

「『かの神を殴る役割は自分がやる』と君が言っていたのを聞かれてしまってな――それを、片瀬の家で叶えて欲しいと。透の魂を持つ――君に」

「――成程ね……そりゃ、確かに過酷な道程ですコト」

道理で止めようとするわけだ――と、嵐は水月初代に困ったような笑みを返した。

「初代様、もしかして結構過保護だったりする? ――ってか、信用がないなあ、俺。
嵐ちゃんってば、『やるときはやっちゃう子』ですよー?」

「馬鹿者。かわいい子らを、死地に放り込むと解っていて胸を痛めずにすむ母がいる訳が無かろう」

「ありがとう初代様。――その言葉だけで、充分な贈り物だよ」

贈る言葉ではなく、きっと初代の本心なのだろう。嵐にはそれが少し、嬉しかった。

「――嵐。君は決して、ひとりでは無いのだぞ。それを決して、忘れるな」

何やらいたたまれなくなった嵐は、口元に手を遣り、ふいと初代から顔をそらす。

「もし叶うなら、黒蓉ちゃんにゆっといてー。『長く待たせることになっちゃって、マジでゴメン』って」

「断る」

取り付く島も無い切り捨てるような態度に驚いて、俯きかけていた顔をあげると、気丈に微笑む水月の始祖と正面から目が合った。

「『やるときはやる』子なのだろう? 君は。
――細君には、自分の口から伝えるのだな。君の旅した、長い――長い物語を。時間は、幾らでもあるのだから」

「ん。っじゃ、行って来ます! あ、そうだ初代様。アレやって、アレ」

水月の始祖に背を向け、新たな世界に旅立ちかけた嵐は、ふと思い立ったように振りかえる。

握った拳を、初代に向けて差し出す。

「見送りの祝福の言葉は――不要か」

嵐の意図を理解した水月初代は、自らも拳を握り、嵐に応えた。

コツン――拳の上に軽く一回。
コツン――拳の下から、軽く一回。
コツン――拳と拳を正面から、軽く合わせる。
掌を開いて上に――ぱあんと、手と手を打ち鳴らす。

透の魂は再び「嵐」として、水月とも宮城とも違った想い出を得ることになったのだった。

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