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異説・片瀬家の系譜<番外1・第2幕>

片瀬家の系譜<番外1>

「嵐の命、本日只今より
玲様にお預けいたします。存分にお使いください!!」

異国から来た青年は、当主の顔を正面から見据えてそう告げた。
嵐が面を上げると、澄んだ鈴の音と共に派手な羽の髪飾りが揺れる。
深緑の髪に、琥珀の瞳。双子の艶やかな若葉色や鬱金色とは趣を違えているが、心に風神の守護、技に土神の守護を得た片瀬の双子――秋幸、秋征と並ぶとまるで本当の兄弟のようにも見える。

初代・片瀬玲のたっての願いで迎えた養子は、現当主・森香のみに見せられた書付や、実家での幻灯等から思い描いていた姿とは大きく印象が異なっていた。

(もっとこう――くだけた挨拶をするのかと思っていたが……警戒されてしまったかな)

「初めまして、嵐くん。ユキ君と並ぶと、僕たち三つ子みたいだね」
「よろしく、嵐。おれの事は秋幸でもユキでも好きな方で呼んでくれていいぜ」

(おや? 秋征の方が懐くのは珍しいな。あの「座敷わらし」がねえ……)

髪色を見て判るとおり、心に風の加護を受けた双子は、何を考えているのかわからないところがあり、当主にとって常に悩みの種でもあった。
討伐に出せば、お互い傷を負うたび回復を進言してくる。

しかし、隊長が体力半分持っていかれるような事があっても、放っておけば治るとばかりに隊長狙いやら、やたら効果が派手な攻撃術を提案してくるのだ。
どうやら、双子の世界は互いが互いを中心に回っているらしい。
そんなに心配なら片方を留守番にするかと言ってみたら、唯一品の槍や、先祖が心血注いで育てた特注剣を質入して家出しようとする有様。
つまり、引き離せないのだ。

その双子が、初めて自分達以外に関心を持った。
これは、喜ばしい変化なのかもしれない。

「じゃ、マサ君とユキ君でいいかな?」
「うん。あ、そうだ当主様。せっかくだから嵐くん囲んで幻灯撮ろうよ」
「あ、ああ。では街へ出ようか」
「……明日は雨かしらね」
「しっ! 滅多なことを言わないでくれ。双子が機嫌を損ねたら、当主の言うことも聞かないんだから」

嵐を挟んで、三人並んで歩く双子を追うように、片瀬の現当主・森香とその妹・果林が並んで歩く。

通常、長子が兄・姉となるのだが、「双子に限り後から生まれた方が兄または姉」という家訓に従い、片瀬の家では槍家系の二子秋征が兄、薙刀家系の二子森香が姉だ。
序列に従い、現当主は森香なのだが、風の双子は当主の威厳をもってしても御しがたい。

 

街並が気になるのか、嵐は先刻から周りを見回している。
ふと、彼は振り返って森香に問うた。

「ひとつ聞いても良いですか?」
「ああ。何かな」
「失礼を承知で申し上げますが。……片瀬の家は、悲願成就を胸に、ひたすら邁進していらしたのだという印象を受けました。大願成就も近い、この時期に俺を迎えた理由は何でしょう」

やはりきたか、と森香は息を呑んだ。

「君を迎えたのは片瀬初代の願いだ。私も詳しくは知らない。すまない……それより、『大願成就が近い』『片瀬が悲願に向けて邁進した』と判断したのは何故かな?」
「街並です。武具屋や雑貨屋、宗教設備は充実してますが、その他の所謂『娯楽』に関わる部門への投資は切り捨てていらっしゃるのではないかと」

品揃えを見れば復興の度合いが知れる。
武器防具の充実振りは、片瀬が商業部門への投資をそこそこしてきたことの証だ。

宗教部門は、一族が子を授かるのに必要な「交神の儀」の奉納点に直結しているし、刀鍛冶を呼ぶことが出来れば戦力の大幅な増強に繋がる。
漢方薬屋の品揃えを充実させれば討伐で多少の無茶もきく。

つまり、優先的に資金を投じてきたのが討伐に直結している所に限られている――故に『悲願成就に向けてひたすら邁進した一族』と判断できる、という訳だ。

「娯楽を切り捨てているというのが何故解る?」

「俺の実家――水月の初代は……そうですね、一言で表すなら『変わった』方なんですよ。『武具など拾い物で充分、そんな血腥いものにつぎ込む余裕があるなら、娘達が美しく着飾って人生を謳歌できるように着物を仕立てるか、幻灯枠が追加されるように娯楽部門に投資しろ』と、言ってのける剛毅な女侍です――ほんの少しだけ、貴女に雰囲気が似ています。……玲様」

そこまで言って、嵐は苦笑する。そして、視線を森香の顔から再びぐるりと街並へと見渡し――告げる。

「その水月初代の方針に従って復興させた街並と、この街並は大いに違っています」

それに俺は、朱点打倒のみを掲げて生きた者達の街を一度、見たことがあるから――と、嵐は一瞬だけ、懐かしさと淋しさの入り混じったような微笑を見せた。

「嵐くん? 当主様も何か難しい顔してるね」
「当主様、あんま細かいこと気にしてたらハゲるぜ」

足を止めた嵐に気付いて、双子も振り返る。
「ユキ君、淑女に向かって『ハゲる』は無いでしょー!」

嵐は笑って、秋幸の肩を叩く。

「あとね、当主様。ユキ君とマサ君から聞いたんですよ。術を覚えるために、ふたりは『朱ノ首輪』使ったんでしょ? 主力の二人に、家出されるリスクを賭けてまで覚えさせたい術があるってことは――相当、切羽詰ってる。だけど、ソレを実行するだけの見返りが期待できる――ここまで来たら『悲願成就』しかないよね……って、思ったんですけど。違いますか?」

(一を見て十を見通す、か――成程な。初代が求めたのはこれか)

くだけた口調の方が作っている彼なのか、固い口調の方が作っている彼なのか、森香にはまだ見極めが付かない。
だが、表情を見る限り、秋幸や秋征に対して話しかけるときや、その逆の時。嵐の良く変わる表情は、作った表情ではなく内から出てきた感情そのままの、歳相応のものに見えた。やはり、歳が近く、考えることも似ているものには心を許すことが出来るのだろうか。
少なくとも、双子には多少なりとも打ち解け始めているのではないか――と森香は思った。
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