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異説・片瀬家の系譜<番外1・第3幕>

片瀬家の系譜<番外1>

「来た早々で悪いが、嵐。君には、地獄に行って貰う」

「当主様の命令とあれば、何なりと」

悲願達成を目前に迎えた片瀬の家。

嵐の推測は外れではなく、黄川人の言う『素敵な庭への鍵』を集め終えた後、突如として出現した赤い印へと踏込むと、そこは地獄の入り口だった。
三途の川を越えて、針の山か地の池を越え、砂漠を抜けると朱点童子の待つ修羅の塔への入り口がある。
討伐隊は、これまで幾度も地獄の中と、京の家とを行き来していた。
地獄の中を徘徊する名も無い鬼達を狩れるようにならなくては、到底朱点になど挑めない。

当主となったものには、一族の能力が数値として『視えて』しまう。
嵐本人が『この時期に迎えるほど高い能力ではない』と言うのが頷ける、言い方は悪いが中途半端な数値だった。
際立って高いのは、風に関わる数値だろうか。
秋征が使いこなすことが出来ずにいる『名弓雲破り』での属性が上乗せされれば、地獄の鬼に対しても渡り合えるかもしれない。

だが、現状のまま、朱点に挑むのは難しい。

つい先日、朱点と八ツ髪に敗走を喫した経験のある森香は、それが痛いほどよくわかっていた。
朱点に挑む為には、地獄に滞留して時登りの笛で時間を巻き戻し、何度も何度もただひたすらに鬼を狩り続けて体力その他の数値の底上げを図るしかないのだ。

「秋幸、秋征。付いて行ってくれるな? それから、一匹でも多くの鬼を狩れる様に、今月はみさおを隊長にする」
「うん。嵐くんは僕が守るから安心してくれていいよ」
「……男に『守る』って言われても嬉しく無いなあ。女子に守られるのはもっとイヤだけどねー」
「嵐、実家じゃどうだったか知らないけど、後列に下がっててくれよ。ウチじゃ基本的に弓は後方支援担当だからな」
「了解。我侭言ってもいいなら、女子のみさおさんを前列に立たせて俺は後列っての、いささか信条に反するんだけど……実力不足ならまず、足をひっぱらないように務めないとね」
「大丈夫よ。先手さえ取れれば、わたしの丘鯨で殲滅できない雑魚はほぼ、いないから」

現在家に居る女子で唯一、来訪時に「男より逞しい」と言われなかったみさおだが、いざ討伐となれば、女だてらに重たい大筒を担いで豪快に戦う。
しかし、こうして座敷に居れば髪や瞳の色を除けば市井の娘と変わらない、年頃の若い娘だ。
軽防具しか付けられず、防御面に若干の不安が残る大筒士は親玉と戦うには不向きと判断され、片瀬家では初陣の者が能力値を底上げする際に同行することが多かった。

つまり、今回の出陣では決着をつける気が無いのだと、討伐隊に指名された双子には解る。

「それと、言いにくいのだが……これも、初代からの命令でな。嵐、討伐から帰ってきたら『交神の儀』に臨んでもらう事になる。奉納点が6万点台になるまで帰ってくるな」

「……8ヶ月の俺を養子に迎えた理由はそれでしたか」

奉納点で、相手が誰であるのかは察しがついているのだろう。一瞬、ハッとした表情になった嵐は、かすかに苦笑した。
元服後は心身共にバランスの取れた時期でもあるが、身体能力を底上げして戦わせることを考えるのであれば、もう少し若い者を養子として迎えた方が良いに決まっている。
迎えた直後から第一線で戦うことが出来るほど高い能力を有している者ならば、それでも構わないのかもしれないが、育て上げる必要がある者としてはやや不向きだ。

「他の年長者の方を差し置いて、っていうのは正直気が引けるんですけど」

「いいの。わたしも森香姉も気にしないし。片瀬の家訓として、男は結魂や交神に自分の感情挟む余地無いの知ってるから。逆に『ちょっと気の毒かしら』って思うわよ」

片瀬の家訓として、個人的な感情で相手を選ぶのは女子の特権とされている。
男児は、奥義を継承しない場合のみ相手を選ぶことが許されるが、他家から『血筋が欲しい』と乞われれば絶対に断れない。
槍家系の跡取りでない秋征は、比較的自由が選べる身だ。その理屈で言えば、嵐も選択の自由が適用されてもおかしくは無い。

「おそらく初代は、『迎えた血筋が絶える事に対する懸念を払拭しておきたいのだろう』と私は思うのだが……すまないな。呪いを解くことが出来る目前にあって、このような頼みをしなくてはいけない当家の不甲斐なさを――恨んでくれても構わない」

「嫌だな、玲様。お美しい方の頼みをきかない訳にはいかないし、恨んだりなんてしませんってば。だから、そんな風に眉間にシワ寄せるのナシ! 美人が台無しですよ」

「ぷっ……あははは!」
「そうそう、女性はやっぱり笑っている方が――って、どうしたの? ユキ君……と、マサ君も」

何がそんなにおかしいのかと、森香を不思議そうに見ている(というより固まっている)双子に、嵐は思わず声をかけた。

「いや、珍しいものが見れたなーというか」
「当主様を女扱いするヤツも珍しいけど、こんな風に笑った顔が見られるのも珍しいぜ」
「というより、片瀬の女は総じてイツ花ちゃんに『その辺の男より逞しい』なんて言われちゃうもの。だから、当主様じゃなくても、こんな風に嬉しいこと言ってくれるの嵐くんが初めてよ。秋幸君も秋征君も見習いなさいな」

目の端にうっすら涙を浮かべるほど笑った森香を見て、討伐隊の面々は三者三様の感想を述べる。
みさおに至っては、双子を軽く窘めていた。

「ああ、こんなに笑ったのは子供の頃以来じゃないかな。――さて、嵐」
「何でしょう」
「戦装束だがな、まだ仕立てあがって無くてな。悪いが、片瀬の色で仕立て直した、君の装束が出来上がるまでは前のを使ってくれないか」
「前の? 俺はソレでも構いませんが……態々仕立て直してもらうのも気が引けるし、片瀬の先人のどなたかが以前使っていた余りでも、差し支えないですよ」
「特別製なのだろう? 君のは。それに先人の余りでは君や秋征には着丈が合わない」

どのみち仕立て直しに出さなければならないのなら、新しく仕立てる方が職人の手間も省けて一族の士気も上がるだろうと森香は踏んでいた。
それに、嵐の戦装束は通常の仕立てと違い、羽織の内側に物入れがあったり、表にも装飾が施されている一点ものを好んで着ていた――と森香は伝聞で知っていた。
残念ながら、当主の間に挨拶に現れた嵐は、戦装束から着替えてしまっていたので実物を見る機会は無かったのだが。

「あ、嵐くんの特製戦装束だよね? 当主様、せっかくだから同じの僕にも仕立てて欲しいな」
「マサ、あのど派手な装束、お前も着る気かよ?! 当主、オレのは仕立て直さなくて良いからな!」

『先人の使っていたもので良い』という嵐の反応も予想外だったが、双子の反応もまた森香の予想の範疇を超えていた。

 

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