ホーム > タグ > 俺屍二次創作

俺屍二次創作

高羽家青嵐記 番外・始祖の娘 4

何日か経って、起き上がれるようになったわたしは、透の姿を探した。

「透様なら、討伐に行かれましたよ」

言って、イツ花 は玄関先に置かれた透の眼鏡を指差した。
これがここにあるという事は、本当にひとりで討伐に行ったらしい。

「あの、よろしければ イツ花が街をご案内しましょうか? 『忍ちゃんには、起き上がれるようになっても無茶はしたらアカン。ゆっくり街でも見て回れって言うといて』――だ、そうですのでェ」

そういえば、地上に来てからなんとなく幻灯を撮ったことを覚えてはいるが、しっかりと街を見て回ったことなど無かった。
イツ花の好意に甘えて、あちこち案内してもらっていると、家の近くまで来たときに、一軒の庵から澄んだ音色が聴こえてくる事に気がついた。

「ああ、これは三味線ですねェ。こんな、音曲を嗜む方が戻っていらっしゃるなんて、京の都に平和な日常が戻りつつある証拠です」

それから幾日か過ぎた。家にあった巻物もあらかた読んでしまい、他にすることも無いので、わたしは先日通りがかった三味線の音が聴こえて来た庵の前まで来てしまった。
今日は、あの澄んだ音色が聴こえてこない。
――居ないのだろうか。

「何か、御用?」
「きゃあ?!」
「何よ、失礼ねぇ。てっきり、最初の入門者かと思ったんだけど。違うの?」
「あ、あなたが、あの三味線を……?」
「そうよ」

背後から 声をかけられて振り返ると、昨日の三味線の主が立っていた。
透より、頭ひとつ半分くらい背の高い――声も、顔立ちもどう見ても男性にしか見えない。
驚きのあまり、それだけようやく絞りだしたわたしに、彼はふふっと笑うと「まぁ、そこにおかけなさいな」と縁側を示した。

並んで縁側にかけて、撥の持ち方から教えてもらうことになり、手が触れあったとき――わたしは反射的に先生の手を離してしまった。
透の手とは感触が違う、白くてほっそりした指先。
けれど一回り大きい掌は、間違いなく男性なのだと意識させられた。

「大丈夫、とって食いやしない わよ」

片目を瞑って微笑む先生の顔を見たら、なんだか顔が熱くなった様な気がした。

「……忍ちゃんは箱入りのお嬢さんな のね」
「お、お嬢さんってわけじゃ」
「そんなの、立ち居振る舞いを見ていればわかるわ。きちんと躾けられた所作だもの」

わたしがあまりに緊張しているせいか、撥を手に取るのを止め、先生は譜面をいくつか出してきてくれた。
それから、透が討伐から帰ってくるまでの間、 わたしは先生と色んな話をした。
ただ、わたしたち一族にかけられた呪いについて――特に、『種絶の呪い』については『絶対に他人に言うな』と透に きつく口止めされていたから、家族の話にはほんの少しだけ、嘘を交えて語ることになったのだけれど。

並んで立てば、今のわたしと透はとても、親子には見えない。
わたしの背が、透とほぼ同じ位になってしまったから――と、いうより。良くて精々、兄と妹ぐらいの歳の開きしかない……ように見えるらしい。
先生は、高羽と聞いて思い当たる事があったらしく、
「あら、じゃあ貴女は透ちゃんの妹さんなのかしら?」と言ってきたからだ。

「え、先生……透ちゃんのこと知ってるの?」
「大江山の赤鬼――朱点に挑んで、奇跡を起こしかけたお侍さんの、忘れ形見なんでしょ? ――でも、変ね。アタシが聞いてた奇跡の御子の噂と、透ちゃんの年恰好って合わないんだけど。まぁ……噂は噂、ってことなのかしらね」

だから? それで、透はわたしに『父と呼ぶな』と怒ったのだろうか。
普通とは違う、『高羽のお家事情』が知られることを慮ったのかもしれない。
「そうだ」とも「違う」とも答えず曖昧に笑うことしか出来ないわたしに対して、先生もそれ以上追及しなかった。

「忍ちゃんは、綺麗な声をしているもの。弾き語りなら、三味線よりこっちのほうが良いわよ」

先生が渡してくれた、御影石でできた琵琶を持って――家の玄関へと 向かうと、討伐から帰ってきた透が居た。
ちょうど、わたしと帰りが一緒になったらしい。

咽返るような、血の匂い。
先日の怪我が脳裏をよぎり、思わず一歩踏み出すと、透は片手でわたしを制した。

「触んな」
「だって……血が」
「俺のと違う。鬼 の血ィや」

どうやら透の血ではなく、返り血のようだった。
よく見れば、戦装束のあちこちが破れたり、焼け焦げたりしている。
『触れるな』と言いながら、透は一瞬――痛そうな表情をする。
やはりどこか怪我をしているのかと思い、手当てが必要なのかと手を伸ばすが、透はすっ――と一歩、わたしから遠ざかった。

「――汚れるで。湯、遣うんやったら先に行っとき」
「でも、そんなの討伐から帰ってきた透ちゃんの方が」
「アホ。俺の後なんか、血ィと泥でぐちゃぐちゃンなるから、とても入れたモンやないで」

犬の仔か何かを追い払うよ うな仕草で『行け』と示され、わたしは透の言葉に従い湯浴みを済ませた。

→高羽家青嵐記 番外 始祖の娘・5へ

高羽家青嵐記 番外・始祖の娘 3

初陣のとき、怖くて目を閉じるといつも、透の背中が目の前にあった。
彼はこちらを振り返ることはしなかったけれど、たまに癒しの術をかけてくれたり、顔は鬼達の大将の方に向けたまま、無言で傷薬を放って寄越したりした。

そうして戦って戦って――時が過ぎた。

最初は見上げていた、透の肩が、今ではほんの少し下に見えるようになった気がする。
相変わらず、彼はわたしの方を振り返ることはしないので、討伐の最中にどんな表情をしているのか――後列に立つわたしからは見ることが出来ない。
もうすこし、迷宮の奥へ。
わたしの武器――薙刀は、前列に進み出た方がより多くの鬼を狩ることが出来る。
だからわたしは、前列に進み出ると進言した。
三度、首切り大将の率いる編隊を倒した後。

「――っ、忍ちゃん!!」
不意を突かれ、背後から奇襲を受けたわたしたちは、燃え髪大将の率いる群れに囲まれていた。
次々と斬撃をくらい、血が流れる。
(――ああ、寒い)
立っているのがやっとで、祖母の形見だという風の守護を受けた薙刀を杖代わりに、体を支える。
こちらに連続して投げつけられる火の玉――花連火の術だ――が視界に入ったとき、もうだめだと思った。
一瞬、白くたなびく布が血に染まるのが視界の端に見えた。
そのあとのことは、正直よく覚えていない。

気がついたら、わたしは寝かされていて……半分しかない視界から家の天井が見えた。

「気ィついたんか」

あちこち包帯を巻かれて、片腕を吊った状態の透がわたしを見下ろしていた。
眼鏡の所為で、彼の瞳は今は焦茶に見える。

「ごめんなさい……わたし」
「謝んな!」

声を荒げる透に、どう接していいのかわからなくて、わたしはそっと手を伸ばす。
わたしの手にも、あちこち包帯が巻かれていた。
イツ花が手当てしてくれたのだろうか。
振り払われると思っていたわたしの手は、意外にも、透の頬に触れることができた。

「医者が言うには、痕は残らんらしい。……今月は、俺がひとりで討伐行くから。忍ちゃんはしっかり休んで、怪我を治しな」

それだけ言うと、透は部屋から出て行った。

 

→高羽家青嵐記 番外 始祖の娘・4へ

高羽家青嵐記 番外・始祖の娘 2

建っているのが不思議なくらい、ボロボロな建物だった。
イツ花に手を引かれ、玄関をくぐると、イツ花よりもほんの少し背の高い人影が振り返る。

「はじめまして、透様! 今日から、身の回りのお世話をさせて頂くイツ花です! よろしくお願いしまーす! とりあえず、風邪を引かないだけが取り柄の私ですから、何でもバーンとォ! お言いつけください。でもってェ、一日でも早く朱点童子を倒せるよう一緒に頑張りましょうネ!!」

「何が『はじめまして』や! ふざけとんのかお前ッ!」

イツ花の挨拶が終わるか終わらないかのうちに、そう告げると、運命の始祖――高羽透はわたしたちを睨みつけた。
何か、機嫌を損ねるようなことをしたのだろうか。
わたしは思わず、イツ花の袖を掴む。

ごめんなさい、 と何とか声を絞り出すと、彼の真紅の瞳がイツ花からわたしへと向けられた。

「違う。自分に言うてるわけやない!」

ぼんやりと記憶にあった、あの意志の強そうな――それなのに、どこか淋しそうな目。

「怒らないで、父様」
「お父ちゃん言うな!」

そんな風に、荒い口調で声をかけられたことが無いわたしは、どうしたらいいのかわからない。

「ごめんなさい」

口惜しくて、 思わず床へと視線を落とすと、ぽたぽたと水滴が落ちた。

「すまんかったの」

髪に触れる、暖かな掌の感触に驚いて顔をあげると、すぐ近くに透の顔があった。
彼は懐から、イツ花が身につけているのによく似た装身具を出して身につけると、わたしにむけて微笑んだ。

ふわりと、陽の光が射したような気がした。
笑うと、彼は印象が変わる。でも、どうして透は、こんな目をするのだろう。
表情は笑っているけれど、目だけは……そう、わたしが、傷を負ったときに母が時折見せたときのような――涙を流すときの目に、印象が似ていた。

「これでもう、怖いことないやろ? 泣いたら、別嬪さんが台無しやで」

そう言ってそっと頭を撫でる透の顔を見つめて、わたしはようやく彼の変化に気がついた。
真紅の瞳が、焦茶に染め替えられている。
何故、隠すのだろう。
そのままの方が、紅蓮の炎のようで、キラキラとしていて綺麗なのに。

「忍様も落ち着かれたことですし。いざ、出陣!! の前にィ、パパパパぐらいで構いませんから、色んな情報を お確かめくださいネ。じゃあ、荷解きしてきまーす!」

わたしが袖を離すと、さっとイツ花が走り出す。
透は何か、イツ花の背を見て 難しい顔をしていた。眉間にしわが寄っている。

「あの、当主様」

父と呼ぶなと言われたので、イツ花にならって呼びかけて みる。
すると彼は、今度は困ったように笑いながら、わたしの頭にぽん……と手を置いた。
さっきのは、わたしの気のせいなのだろうか。
もう、あんな……痛みを感じるような目では無かった。

「透でエエよ。ふたりしか居らんのに、そないな呼び方されたら堅ッ苦しゅーて適わんわ」
「はい」
「女の子の着替えを、俺がするわけにいかへんしの。イツ花ちゃん呼んでくるから、ちょっと待っといてや」

そう言うと、透は開けっ放しになっていた障子を閉めて部屋から出て行った。
透と入れ替わりに、入ってきたイツ花に手伝ってもらい、戦装束に着替えて玄関へむかうと、一足先に支度を終えた透がわたしたちを待っていた。

「当主様、ご出陣!」

イツ花の声を背に、出 発しかけた所で透が「あ」と足を止めた。

「悪い、イツ花ちゃん、これ預かっといて」
「え? 透様、眼鏡がなくて、お差支え無いの ですか?」

二人が身につけた装身具は眼鏡というものらしい。
イツ花の言い様から察するに、視界を矯正する目的で身につけるものなのだろう。
では、透は目が悪いのだろうか。

驚いた表情で透を見つめるイツ花から眼鏡をとり……透は、先程まで自分が見に付けてい た眼鏡をイツ花にかけさせてから、玄関先においてあった鏡を取った。
イツ花の瞳は、琥珀から墨に近い灰色に染め替えられている。
鏡を見たイツ花は、驚きの声を上げていた。

「度は入ってへんから、イツ花ちゃんには向かへんと思うけどな。目の色隠したければ貸したるわ」

そう言うと透は、ははっと笑って、イツ花の頭をぽんぽんとはたいた。

「透様は、眼鏡をお使いにならない方が、良いかと……」

自分の眼鏡にかけかえたイツ花の頬が、ほんのりと朱に染まっている。

「そうか? まあ、討伐の時は割れたらアカンから、言われんでも置いていくけどな」
「あの、透……ちゃん」

イツ花が言っているのは、眼鏡が割れるとか、そういう心配をしているのではないと思う。

笑 うと、透はやっぱり印象が変わる。
眼鏡で表情や瞳の色を隠すことなんてしないで、もっと笑ってくれればいいのに。
なんだか眩しくて、わた しは透から目を逸らしてしまう。
でもすこし気になって、ちらりと表情を窺うと、透は一瞬だけ……また、あの淋しそうな目をしていた。

「忍ちゃんは、怖かったら後ろに下がっとき」
「……うん」

戦うのは怖い。
だからわたしは、討伐のときは透の言葉に従うことに した。

 

→高羽家青嵐記 番外 始祖の娘・3へ

高羽家青嵐記 番外・始祖の娘 1

「忍様! もう、お探ししたんですよ!」

髪に花飾りをあしらった、土色の髪に琥珀の目をした少女が、頬を膨らませて駆けてきた。

「イツ花」
「透様も、討伐に出られるだけの基礎は身につけられたようですし。忍様は、明日……イツ花と一緒に、地上に降りるんです」
「地上……?」

身の回りの世話をしてくれる、仙女がたまに話して聞かせてくれた、「人の世界」のことだろうか。
ずっと明るくて、暖かいここ――天界と違って、陽の光が射さない時間(夜というのだそうだ)がある世界。
天仙や神は『地上』に降りることは出来ない。
だから、母との別れがいずれやってくるのだとも聞かされていた。
ふわふわの羽飾りのついた袖に捉まり、雲の合間から母が見せてくれた『地上』は、何かとても怖ろしい所に見えた。

手を伸ばせば果物の成る木があちこちにあり、小川のほとりに建てられた四阿には焼き菓子が用意された――綺麗なここと違って、荒れ果てて今にも崩れそうな建物が並んでいる世界。

「いや……怖い」
「大丈夫。イツ花が、そばに居りますから」

母は何度も、わたしに頬を寄せては「ごめんね」を繰り返し言っていた。
本当はずっと、ここに居させてあげたいと。
あんな恐ろしい世界に、わたしをやりたくは無いのだと。
地上に降りたら、もう母に会うことは出来ない。

「イツ花。お母様は?」
「舞子様は、お越しになることは出来ません。代わりにこれを、預かっております」

イツ花が差し出したのは、母の瞳の色によく似た、よく晴れた空を思わせる青い宝玉だった。

「地上は、怖いところなんかじゃありませんよ? そりゃあ、今は朱点のおかげで荒れ放題ですけどォ、イツ花や、忍様のお父様である、透様が育った世界です。本当はとてもとても、暖かくて素晴らしいところなんですから!」
「お父様……?」
「はい。運命の一族の『始祖』。朱点の手から、地上と天界の両方を救うために立ち上がった、すっごいお方なんですよ!」


神々の間に、子供はいない。
わたしの存在が珍しいのか、どの女神も女仙も、顔を会わせると抱き上げてくれたり、髪を梳いてくれたり、果物やお菓子をくれた。
でも、母――飛天ノ舞子を除いては、誰も……わたしの父であるという、『高羽透』のことを語ろうとはしなかった。

――貴女のお父さんはね、優しい人だよ。とても。
――小さかったから、覚えて無くても……仕方が無いよね。

母も、多くを語ろうとはしなかったが、一度だけ。
遠い地上を見ながら、そう言ったことをぼんやりと覚えている。

そうしてわたしは、女神に見送られて、地上に降りた。

→高羽家青嵐記 番外 始祖の娘 2へ

高羽家青嵐記 番外・始祖の娘 序

「名は、『忍』。刃の下に、心ありで――しのぶちゃんや。そう呼んだって」
頬に触れる、暖かくて大きな掌の感触。
意思の強そうな真紅の 瞳。
どうして、この人はこんなに淋しそうな目をしているのだろう。

――俺に似ぃひんで、ホンマに良かった。

耳か らでは無く、心に直接伝わってくる声。
この人は誰だろう。

(そんな、泣きそうな顔をしないで)

けれど、伝えたい 思いは言葉にならない。
イヤだ。
頬に水の感触が伝う。

「ああ、すまんの。びっくりさせてもうたんか――この子、頼んま す」
(待って、行かないで!)

手を伸ばしても届かない。
声も言葉にならない。
わたしに出来るのは、言葉にならな い思いをただ、叫ぶことだけだった。

「そんなに泣かないで、運命の子」
先程私に触れていたのとは違う、少し小さな白い手。
声 も、高くて柔らかい。
「貴女が地上に降りるまでの、ほんのチョットの間だけど。アタシが、守ってあげるから――」
ふわふわとした羽の感触 がくすっぐったい。
先程の大きな手の感触とは違うけれど、柔らかで暖かな腕の感触。
わたしは、眠りに落ちる。

 

→高羽家青嵐記 番外・始祖の娘 1へ

Trick or treat

「イタズラしちゃうよ?」

「うわ、何。なに、ナニ?!」

  続きを読む «Trick or treat»

異説・片瀬家の系譜<番外1・第4幕>

「――お待ちしておりました」

冷たささえ感じさせる声で、女神が告げると、儀式の間の扉が開いた。

どういう理由なのかは知らないが、今回の交神の儀ではイツ花の奉納舞は無い。
一族側の、交神の儀に臨む者――嵐を迎え入れると、扉は固く閉ざされた。

 

儀式の間にいる嵐と、かの女神は一体どんな表情で会話を交わしているのだろうか。
交神の儀での出来事は、基本的に本人同士にしかわからない。それを尋ねるのは野暮というものだろう。

 

祈りが終わり、扉から出てきた嵐に、別段変わったところは見られなかった。

「うーん。何つーか複雑。……てかさー、ユキ君マサ君、本当にコレで良かったの? 昼子様ってさ、二人のお母さんなんでしょ一応」
「嵐、オレ達をいくつだと思ってるんだ? 母恋しって年齢でも無いだろ」
「あーそっか! 嵐くんのお子が来たら、その子って僕たちの弟か妹ってことになるんだよねー。男の子? 女の子?」
「未来を写す姿見で見たカンジの顔立ちだと……あれは多分、男の子だなー。はは、俺やっぱ、女の子と縁薄いのなー」
「そうなんだ。でも男の子でも女の子でも、嵐くんに似てると良いよね」
「いや俺に似るより昼子様に似てくんなきゃ、強い子になんないっしょ」

「ううん。嵐くんは強いよ。能力がどうこうじゃなくて、心――とも違うんだけど……ごめんね、何だかうまく言い表せないよ」

 

溜息をつく嵐とは逆に秋征は妙に嬉しそうだった。
兄弟のような存在である嵐を迎えただけでなく、その嵐との間に、血の繋がった本当の弟が生まれるというのが嬉しいのだろうか。

(――参ったな。私には、秋征が何を考えているのか、本当に解らん)

――奥義を継がなくて良いなら、僕、交神なんて絶対に行かない!

高い素質を見た初代の判断により、双子としては例外的に秋征にも子を残させようということになり――では結魂相手か交神相手を――片瀬の男子としては例外として、本人に相手を選ばせようと姿絵の一覧を持って行ったところ、秋征は姿絵や釣書をぶちまけるように投げ捨て、秋幸にしがみついていた。

それが、つい2ヶ月程前の出来事だというのに。

やはり、嵐を養子に迎えたことで――閉じた双子の心は少しずつ、他に向かって開かれているのだろうか。
(春駒殿の与えた『傷』も、呪いと共に解けてくれれば良いのだがな――)

来月はいよいよ、一族の悲願だった「朱点童子打倒」を果たすことになる。
八ツ髪と朱点は手強い。
かの鬼は、雷獅子の術を得意としているようだ。
攻撃面での若干の不利は否めないが、水と風の数値の伸び方を見るに、おそらく嵐は朱点の術には耐えられる筈だ。
術よりも、奥義などの物理攻撃を重視している片瀬家では、どうしても水や風の素質を伸ばすのはおろそかになる。

おそらく、初代が縁組の相手として嵐を選んだのも、朱点の打倒前に交神を命じたのも、片瀬に足りない力を求めるという意味合いも強いのだろう。
(――朱点を倒した『その先』が、あるということだろうな)

朱点を倒し、全てが終わるのであれば嵐を交神に行かせる必要は無い。
口数は決して多くは無いが、嘘やかけひきが苦手な片瀬初代の人柄から察するに、朱点を倒したあとに何が起こるのか――具体的に知らされてはいないのだろう。

そして、初代は何故か――森香と、果林のところにも、縁談話を持ち込んだのだった。
(薙刀の奥義を受継ぐ果林は兎も角、何故私なのだ?)

「当主様、まーたそんな難しい顔しちゃって。前にも言ったでしょ。美人が、台無し」

そそくさと祈りの間から退席した双子と対照的に、場に残っていた嵐が森香に声をかけた。

「いや――何故私なのだ? と、思ってな」
「縁談ですか。そんなのお相手に訊くしかないっしょ。選んだ理由なんてお相手のおウチの人にしかわかんないんだし」
「そういえば、君は結魂したことがあるのだったな?」
「正確に言えば、分身として宮城家に渡った俺ですけどね。残念ながら、俺自身の記憶じゃないのと……片瀬の玄関くぐったときに、色々欠けてる部分があるらしくて。よくは憶えてないから、あんまり参考にならないですよ」
「そうか――」
「うーん。でも……そうだなー。子供って、良いもんですよ。玲様がお嫌でなければ、受けたら良いんじゃないですか? 何人居ても、いとおしいって思えるもんだし、俺らが呪い解いたら。――その子は多分、家や血筋に縛られることもなくなる」
「君は――」
「なんてね。ヤだなー、コレじゃ俺……すんごい子持ちってか、子沢山? 親ばか父さんみたいな発言じゃん? 今の、忘れてください」

ほんの一瞬、真顔になった嵐の表情を見て――森香は初代の不可解な言動の意味や、嵐の抱える運命をほんの少し理解できそうな気がしていたのだが。
当の嵐本人の茶化しによって、まとまりかけていた考えは霧のようにかき消されてしまった。

「ま、耶馬くんや、ユキ君マサ君が一緒だから。必ず、朱点を討ち取って帰って来ますよ。――だから玲様。あなたもどうか、幸せになってください。一人の女性として」
「全く……君は、本当に『風』の性質そのままのような男なのだな。止まりかけていた片瀬の家に、新たな流れを吹き込んでくれた」

血筋を請われても、当主である森香は、結魂を受けることが出来ない。
ならばと、宮城の当主が提案した策は『森香に子を授かるように結魂を執り行い、授かった子を養子として宮城に送り出し、宮城家で当主となった凌紅の養子として迎え入れる』というものだった。
時期を見計らい養子縁組を執り行えば、森香との間に授かった子が当主の子として宮城の家で受継いだ血を絶やすことなく家系を繋ぐことが出来る。

家と血筋を縛る制限の穴を巧みについた、ある意味裏技とも呼べる方法だが、そこまで自分を想ってくれる者がいるという事実は、正直森香も嬉しかった。

「私も覚悟を決めた。宮城家との縁談、受けよう。そして、朱点との因縁に、決着をつけよう。――新たに授かる、子らのために」

雨宿り。


ああ、大きいと粗が目立つな(苦笑)。
縁結びの神社の帰りに、雨に降られて「傘が無いのでコートの中に入れてもらった」というシチュが描きたくて描きはじめた。
描いてる私だけが楽しいという完全な「私得絵」なのですが、不肖の息子二人を育てていただいたご縁でうさぎさんに押し付け捧げました。

メイキングご覧頂いた方には、途中で「ヤッチャッタどうしよう」を乗り越えてきた一枚だということがご理解いただけるかと(笑)。
メイキングで流れだけ乗せてて、完成した一枚絵にコメントつけたページを作るのを忘れてました(笑)

使用画材
アルビレオ水彩紙・ジェッソ・アクリル絵具・カラーインク・マスケットインク

イラスト作成手順・アナログ編 手順4 彩色6 背景・仕上げ

人物がひと段落したので、背景に行きます。


実は、嵐のコートのベース・炎の白部分の影を塗るとき、背景の柱にも同じ色で淡く影を置いていたので、木造用に作った「何となく木っぽい」お色を賽銭箱や柱にぺたぺた塗っていきます。

 


柱に適当に木目らしきモノを描いて、賽銭箱の濃い部分塗って背景建造物完成。

さて。このあと、雨の日っぽい雰囲気を出す為に、雨の日の空気を何とかしていくわけですが。

広い面積をムラなく塗るにはエアブラシ。
……と、言われていますが、私実はエアブラシ使いこなせてません(笑)
それはさておき、人物部分にまで絵具がかかると大変なので、マスキングします。
面積が広いのと、せっかく塗った絵具が剥げ落ちたら泣きそうなので、ここはマスキングインクではなくマスキングシートを使います。
マスキング終了。


↑わかりにくいかもなので、拡大。

 

 

エアブラシ1段階目。


青っ! ってかムラになりまくりじゃん普通に(苦笑)。
このままの明るい青だと、人物が完全に埋もれてしまうので何とかメリハリをつけねば……!

……と思って、青黒系(アクリルのフロシタニアンブルーに、ドクターマーチンのブラック)混ぜて吹き付けました。


やばい、めっちゃおどろおどろしい(汗)
何か出てきそうです(涙)
黒の上から白足してみたけどダメ。
濃すぎ。っていうか、怖すぎ!
というわけで、色が気に入らないのでふき取ります。
だ、大丈夫。乾いてなければなんとかなるさ!!
(私結構コレやります。ふき取ってもダメなら、シンクホワイトとジェッソで上から塗りつぶしたり削ったりするときもあります)

 

ふき取って、エアブラシあきらめて最終的に筆で適当に色置いて滲ませたりぼかしたりしてこんなカンジに落ち着きました。


炎の髪の毛のとき以上に、乾くまでの時間との戦い(笑)だったので、試行錯誤の最中を写真に撮れてないです……(泣)

き、気を取り直して最後の仕上げを。
ホワイトです。


瞳や髪にハイライトを入れ、雨っぽさを出す為にスパッタリングであちこちに飛ばします。
(※スパッタリング=筆に絵具をたっぷりとつけて、爪や定規で弾く、筆に息を吹きかけるなどして細かな水玉状に飛ばすこと)

全体見て、線が色に負けているので、一部分描き起こしていきます。


白だけではあんまり雨っぽくないなーと思ったので、青系も2色ほど、飛ばしていきます。

 



お疲れ様でした。
完成はこんなカンジです。

イラスト作成手順・アナログ編 手順4 彩色5戦装束・藍部分の塗り

で。個性の強い、炎の固有色が入った所で、再び戦装束に戻ります。
藍水の、「藍」にあたる部分を塗っていきます。


厳密に言うと私が塗ってるのは藍色じゃありませんが、イメージというか雰囲気重視で(苦笑)
嵐もコートの下に着てるの、公式の弓装束じゃなくて「修験者の衣」から私が勝手にイメージした僧服(っぽいもの)ですし。


戦装束の藍部分にも陰が入りました。
わかりにくいかもですが、嵐の帽子の模様はマスケットインクでマスキングして色が乗らないようにしてます。
(※後で、マスケットインクはラバークリーナーか消しゴムでこすると落とせます)

嵐の、コートのライン部分が埋もれてしまったので、ジェッソにリキテテックスのシンクホワイトを混ぜて、潰れたラインを起こしていきます。



嵐の僧服にグレーでなんとなくのベースカラーを入れます。


何かもう、この段階で私「ヤッチャッタ」感が満載なのですが、ここで諦めちゃダメだー!(笑)
(この時点で私が感じたやっちゃった感=この色合いで、黒の僧服ってカラーバランス的に大丈夫なの? という不安)

嵐のコートにラインでハイライトが入った後なので若干バランスよく見えなくもナイ。
しかしここに黒を置いて大丈夫なのか。

 
……が、迷っていても仕方が無いので、思い切って色を乗せていきます。
僧服はやっぱ黒決定!(そんなに心配なら色塗り開始する前にカラーラフを作ったらどうか)

僧服の陰になる部分に、指し色を置きます。
何で緑かは、多分全体の統一感とか考えてたんだと思う。(このときの私が)

袴の部分に、赤系の黒でベースカラーを入れていきます。

袴2段階目。
うーんまだ赤系が強く出てる印象があるなぁ。


袈裟? にもベースで赤系グレーを入れます。


根気良く、さらに重ねて重ねて……を繰り返し、何とかソフトブラックぐらいの色合いに落ち着きました。
衿とか、上の衣部分にもさらにお色を入れます。



 

人物何とか終わったので次は背景いきます。

 

→彩色6 背景・仕上げへ

Home > タグ > 俺屍二次創作

最近の投稿
Substorage
サイトの他にこそっとラクガキや散文置いている外部サービス。
※Pixiv/TINAMI以外はTwitterアカウントをお持ちの方でないと見られません。
また、好みの分かれるコンテンツについては、
公開範囲を限定させて頂いている場合があります。
予めご了承ください。
ぷらいべったー(表)
ぷらいべったー(鍵)
Pixiv(現在一時休止・ROM専中)
他ジャンル置き場
サイト内検索

ページの先頭へ戻る