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蓮花(秋征視点)

僕たちにはまだ名前がない。
だけどそれで困った事は……無い、ような気がする。多分。
母神と、限られた天女たちしか、この宮には入らない――もしかしたら、入れない……のかもしれない。太照天昼子付きの天女しか、見たことがないから。




一族と神の間に子がなされると、普通は宮に沢山の神々や天仙が訪れるものらしい。
だけど、僕たちを訪ねてくる神も、天女も居なかった。

母神とは、一度会ったきり。

早いのか、遅いのか。
もしかしたら、止まっているのかもしれない。
そんな時間の中、僕たちは明るい昼と、暗い夜を何度か過ごした。

「なあ。明日、一緒に宮の外に行こう」

何をするでもなく、ふわふわと漂う雲を眺めていると、視界を柔らかな若葉色が遮る。
鬱金色の瞳がキラキラと輝いて見える……何かイタズラでも思いついたんだろうか。

「おまえ外に出ないじゃん。いいもの見つけたから!」
宮の外に、明日咲きそうな蓮の蕾を見つけたのだと、彼は言った。


僕は最初、自分の瞳が苦手だった。
初めて会ったときに、無言で僕たち見下ろしていた……母のあの目を思い出す。
でも――鏡を見るたびに、真横から覗き込んでくる、もう一つの顔。

「オレら、鏡いらないんじゃね?」
よく笑う、自分そっくりな顔を見ているうちに――僕は、自分の鬱金の瞳を「厭だ」とは思わなくなった。

そして次の日。

「どちらか、おひとりずつしか。お外に出しては差し上げられぬのですよ」

天女は困ったように、そっと僕の肩に手を置いてそう告げた。

「じゃあ行ってきて。見たいんでしょ、蓮」
「……行かない」

(……あれ?)
喜ぶかと思っていたのに。
僕そっくりの、彼は……本当に珍しく。沈んだ表情で俯いていた。
こんな、泣きそうな顔をしているのは、初めて見た。

昨日はあれほど、蓮を楽しみにしていたのに。


「じゃあ、僕が行くよ」

繋いでいた手をそっと放し、僕は宮の外へと駆け出した。

……外に出たのはいいけれど、僕は「咲きそうな蓮」がどんなものなのか知らない。
「咲きそう、って事は。『花』だよね……たぶん」
宮の中にこそ訪れはしないけれど、すれ違う神々や天女は、僕が訊ねると親切に教えてくれた。

陽が、ほとんど真上に差し掛かった頃。

「わぁ……!」

初めて見る、蓮の花。
透き通った水の上に、ふわりと広がる花弁。
日の光を受けて、キラキラ光る水滴。

(なんだろう、すごくドキドキする)

ふと、視線を蓮から水面に移したときに僕の視界に入ったのは、水面に浮かぶキラキラとした鬱金色の瞳。
思わず手を伸ばすと、水面が乱れて掻き消えてしまう。

「僕……?」

あんまりそっくりだったから、彼がそこに居るのかと思った。
そしてふと脳裏を過ぎる、今朝のあの表情。

(これ、持って行ったら。喜んでくれるかな)

簡単に摘み取れるかと思っていた蓮は、水底深くに根を張っていて……僕は蓮を一抱え持っていくまでに足元がすっかり泥だらけになってしまった。




僕と、僕にそっくりの双子の片割。
宮の外に出られるのは、どちらか一人だけ。

だからいつの間にか、僕は――僕たちは、「ふたりでひとり」なんだと思うようになった。
地上に降りて――僕たちを明確に、「違う存在」として扱う……春駒という人に会うまで。



時間オーバーしたんで、鍵と連動してるぷらいべったーさんの方にこそっと追加したもの。
けど、両方主人公にしてみて、実は秋幸の方が書きづらくて四苦八苦(笑
こっちの秋征視点の方が書きやすかった。一度主人公に据えてるからっていう理由もあるかと思うけど。
「口下手」を一人称で表現するのって難しいなーと思いました。

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