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Trick or treat

「イタズラしちゃうよ?」

「うわ、何。なに、ナニ?!」

 



幼い子供独特の、高く澄んだ声に呼びかけられ、嵐は慌てて飛び起きた。

目の前でさら……と揺れる水浅葱の髪。

しかし、常日頃と異なっていたのは、相手が見慣れた女侍――初代当主ではなく、見覚えの無い小さな子供だったということ。

年の頃は、おそらく初陣前位だろう。

髪色こそ似通ってはいるが、目の前の子供はいつも自分を見守る剛毅な女侍とはあまり似ていない。

彼女が凛とした「強さ」を感じさせる存在なのに対して、目の前の少年は、冬の澄んだ空気のような――透明感というか、どこか現実離れした印象を感じさせる――独特の雰囲気を纏っている。

水月の血脈に連なる先祖や子孫というのではなく、異国の者なのかもしれない。

衣装もどこか、異国風だった。

二股に分かれた帽子を被り、肩から腕にかけている外套には袖が無い。

足元も、左右非対称な編み上げ靴で、袴の形も見たことが無い珍妙な形をしている。

 

「昼子さまに言われて、嵐さまを迎えにきたんだよー。今日一日、悠ちゃんたちを案内してあげてね」

「へ? 悠ちゃん?」

「こことは違うおうちの、『運命の一族の始祖』って言ったら、わかってくれる?」

 

ぺたんと、ちいさな女の子がよくするような――いわゆるアヒル座りという座り方だ――掛け布団一枚隔てて、嵐の膝の上に座ったまま、少年は嵐ににっこりと微笑みかける。

体にかかる重さから察するに、どうやら幽霊という訳では無さそうだ。

「あー……そゆコト。うん、わかった。じゃあさ、おチビさん。とりあえずソコ、どいてくれる? 出かけるなら俺、着替えなきゃだしー」

「あ、ごめんなさい。嵐さま、ちょっと似てたから。懐かしくって、つい」

 

異国の少年は、ぴょん、と体を退けた。

「あ、今日は異国のお祭りだから。嵐さまも、それ着て行ってね!」

 

手渡された装束は、黒を基調とした異国風の衣装だった。

ピッタリと体の線が出る意匠になっており、二の腕と腹部が露出している。

 

「コレ、何気に肌の露出多くない?」

「猫しっぽのふわふわを肩掛け代わりにすれば寒くないよー」

「猫? ああ、なるほどねー」

 

帽子の代わりにと渡された髪飾りは、言われてみれば大きな耳がついていた。

 

「じゃ、いっくよー!」

着替えの終わった嵐を伴い、どこからか現れた不思議な扉の前に立つと、水浅葱の髪の少年は異国の言葉で扉に呼びかけた。

 

『Trick or treat !』

 

「来たか。遅いぞ」

扉の向こうで、見慣れた初代が待っていた――と。

「うわー! 嵐さまやー! 本物やぁ!! めっちゃイケメン!! やっぱイケメンは何着ても様になるわぁ!」

「うわ、何?! っさ、咲羅さん?!」

 

ふわふわの金の巻き毛に、南国を思わせる褐色の肌。

嵐にとって、初代とは違う意味で頭の上がらない現当主――咲羅によく似た少女――条件反射で思わず身構えてしまうが、雰囲気が少し違う。

咲羅の豪快さと違って――柔らかな、包み込むような暖かい雰囲気がある。それに、咲羅に比べると随分と小柄だ。

しかしいきなり飛びつかれ、困惑しつつも転んでしまわないよう細心の注意を払いながら、嵐は悠の体を支える。

 

「いやーん、時雨ちゃんもめっちゃ可愛いわぁ。ふたりまとめて、悠ちゃんのぎゅーでお迎えや!」

「……可愛い女の子とお知り合いになれて光栄です」

「というわけで嵐。今日は私と君、宮城家から悠さんと朔さんでお買い物だ。しっかりエスコートするんだぞ」

「はいはい。……ってか初代様、何そのカッコ」

「ん? 『仮装を必要とする異国の祭り』だと聞いたのだが」

 

初代の服装は、いつもの男袴に脚半や、戦装束というのでは無かったが――白を基調とした上着の中で、衿と斜めに肩から掛けられた飾り帯の赤がよく映える。足元は黒の長靴と、縦に赤の飾り帯が入った黒のパンツスタイルだった。

女性ながら、嵐とほぼ変わらない(というより嵐より僅かに背が高い)長身な彼女には文句なしに似合っていたが、一見して男物だと判る。

 

傍らに立つ、金茶の長い髪を後ろで一つにくくった青年が宮城朔なのだろう。

彼は黒に橙の帯が入ったとんがり帽子と深緑の外套を羽織り、両手に白手袋を嵌め、片手にはランプを持っていた。

 

「うちが選んだんよ。嵐さまが来る前に、朔ちゃんにはジャックランタン。初代ちゃんには王子様。両手に華で、うちめっちゃ幸せやー」

「うん。悠ちゃんのセンス、バッチリだねー。裾にひらひらの飾りのついた肩掛けつきの上着とか、その変わった帽子とかもよく似合うよ」

 

他家の当主に「ちゃん」づけはどうかと思わないでもなかったが、彼女なら笑って許してくれそうだ。

それに、男だらけの実家ではまず滅多にお目にかかれない、可愛い女の子を前にして気の効いた言葉一つ出てこないようでは男が廃る。

しかし……似合うとは言っても。この状況は普通に考えたら所謂「ダブルデート」ではないのか。何故ここで、水月家の初代は男物の衣装を選んでしまうのだろう。

 

「うん。文句ナシに似合うんだけど、初代様……どうせ『私には似合わない』とかゆって、女物避けたんでしょ」

 

悠から、初代の方へと向き直り、ちらりと一瞥してから嵐は指摘した。

 

「嵐さんはすごいなー。見てたわけじゃないのに、わかるんだ……」

「まぁ、付き合いが長いからねー。うん決めた! というわけで、悪いけど朔さんも俺と一緒に荷物持ちになってくれる? 嵐ちゃんが来たからには王子様とお姫様じゃなくて! 初代様にもお姫様になってもらいます。ってコトで初代様に似合う、女物に着替えてからお祭りに参加! イイよね?!」

 

ビシッ、と初代に指先を向けて宣言してから、嵐はさりげなく悠と朔に目配せして、素早く初代の反論を封じた。

 

「わーい! 嵐さまと一緒にお買い物やー! ショッピングデートやぁ。嬉しいわぁ」

「悠殿がそう言うなら従おう。ならば嵐、君の手腕を見せてもらおうか」

 

ニッ、と不敵な笑みを浮かべる初代に、嵐は片目を瞑って応え、「任せといて」と得意げな笑顔になった。

 

「あ、でもその前に。せっかくやから王子様な初代ちゃんと、うちとで幻灯撮りたい!」

「簡易幻灯でよければ、ボクが持ってるので撮れるよー! みんな並んで」

 

時雨に促され、悠を挟んで朔と初代、初代の隣に嵐が並ぶ。

「ええー。嵐さまもこっち来てやー」

「はいはい。コレでいいかな? お嬢様」

初代の手前で、悠の左手を取って跪く格好で嵐が位置取りをし直した。

「じゃ、撮るよー」

あとで焼き増しして渡すね、という時雨に対し、悠は「時雨ちゃんも一緒に撮りたいから幻灯屋を探そう」と提案する。

 

商店街に入って見つけた幻灯屋で、時雨も含めて幻灯を撮った後、一向は衣装屋の集まる通りへと向かった。

華やかな衣装の着せられた人形が陣取る見せ窓の並ぶ、衣装屋が幾つか並んだ通りにさしかかり、ふと嵐は足を止めた。

黒を基調として裾に沢山のフリルをあしらい、太腿の辺りまで大胆にスリットの入ったロングドレスが目に入る。すらりと背が高い初代に間違いなく似合いそうだ。

ドレスと誂えたような日傘と、薔薇のコサージュのついた帽子で一揃いになっており、仮装というよりは夜会のようだったが、せっかく恵まれた容貌をしているのに、いつもどおり男物を着ているのは勿体無さ過ぎる。

 

「よし決めた。初代様、コレ着て。絶対似合うから! 朔さん、悠ちゃん借りても良い? 悠ちゃんには、こっち。あ、ちょっと待って……リボン付け替えるから」

 

嵐は、縦縞の入った、少女らしいフリルやレースをあしらった白基調のドレスを悠に手渡しながら、手早く髪飾りを付け替えた。

 

「はい。じゃ、俺と朔さんはお会計済ませとくから、着替え終わったら出てきてね」

 

店の前で嵐と朔が待っていると、一足先に悠が出てきた。

「見てみてー! 朔ちゃん。嵐さまの見立てー!! うち、可愛い?」

 

赤と黒の柄をあしらった、白いリボンをなびかせて、くるりと一度ターンする。

悠の動きにあわせて、スカートの裾がふわりと広がる。

 

「……可愛いよ」

「わーい! 朔ちゃんに可愛いって言って貰えて嬉しいなぁ! 今度は嵐さまと朔ちゃんで両手に華ー!!」

「朔さんちょっと羨ましいなー。こんな可愛い女の子がいつも一緒なんてさ」

「……もう一人のお姫様も、出てきたみたいだよ」

 

朔に言われて振り返ると、漆黒のドレスに身を包んだ初代が立っていた。

元々背が高いのに加えて踵の高い夜会靴を履いているので、今は嵐や朔よりも視線が高い。

 

「うわー初代ちゃん素敵!!」

「悠殿も、とても可憐で愛らしいな。うん、良いものを見せて貰った。……ありがとう、嵐」

 

微笑む初代と、彼女にぎゅーっと抱きつく悠を見ていて(ああやっぱり男前な女の人だな)と嵐は思った。

 

流れを静観していた案内役の時雨は、一同を見回すと『異国のお祭り』の解説を始める。

 

「はいはーい。じゃぁ皆、このお祭りの決まりごとを説明するね。仮装した人が合言葉で『とりっく・おあ・とりーと!』って言うと、お菓子をあげることになってるの。でもたまにくれないフリをするひともいるから、そのときは『おかしをくれなきゃ××しちゃうよ?』って言うんだよ。そのキメ台詞は何かいいのを考えてねー!」

 

『Trick or treat !』

 

異国の祭りは、まだ始まったばかり。

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