「今一番の悩み事は何ですか?」
瓦版屋さんの問いに、わたしは正直うっ、と口ごもる。
悩み。「悩み」ね……。ないわけじゃないんだけどね。
よりによって、ココで聞くか。
その、悩みの元凶の――目の前で。
わたしの名は、鷹羽 竜姫(たかば たつき)。
呪われし「運命の一族」の一人。街の人が厚意で建ててくれた、「鷹羽家の御霊よ神社」に祀られている、八代当主・氷雨様の孫娘。
(神社には、九代当主・藍晶様も祀られている。もっともあの御二方は、氏神昇天したわけじゃないから、神籍(仙籍)には載ってない。
なんかあの神社、八代様が亡くなった時に、街の人たちが彼を祀るために建てたらしい――って、イツ花ちゃんから聞いた)
イツ花ちゃんは、わたしのことを「神秘的な瞳をお持ちのお美しい方」と褒めてくれたけど、ねぇ?
そのへんの女子より「愛らしい」という言葉が似合ってたまらない男子が、我が家にはいるのだ。
可憐な容貌と声で街の人たち(主に年長のお姉さま方や一部の殿方)を虜にする傍ら、いざ出陣となれば鬼神もかくやという一騎当千の槍の使い手。
今にこにこと上機嫌でお茶をくんできた、鷹羽の十代目当主――わたしの父上。
天界から、この家に来てはじめて父上のお顔を拝見したときは、そりゃもう衝撃だったわよ。
何故って、「交神の儀式の想い出に」って母神様が持ってた似姿、どう見ても成人男子の姿にしか見えなかったもの。
だからてっきり、わたしの他にもうひとり兄がいるのかと。
「ううん。時雨は僕だよ。――どうして幼子の姿なのかは、君がもう少し大きくなったら教えてあげる」
そう言って微笑むその表情は、とても淋しそうで――とても、初陣前の子供には見えなかった。
来月あたり元服を迎えるわたしは、外見上はすっかり父上のお歳を追い越してしまった。
評判(というか噂)が勝手に一人歩きしてて、「鬼神もかくやという槍の使い手」ってだけで当主と果し合いにくるバカが山ほどいる。
ここんとこ減ってきたから良いようなものの、初陣からこっち、討伐から帰ってくると玄関くぐるたびに「たのもー」が待ってるわけ。
んでそいつらは、よく確かめもせず、大概わたしか氷月(1ヶ月違いの弟)にケンカを売ってきてた。
「魔槍の使い手、『湧流』どのとお見受けするッ! 是非とも拙者と手合わせ願いたい!」
持ってる槍をよく見ろっての!
わたしが持ってるのも、氷月が持ってるのも、ちょっと金子を積めば手に入る、市販の槍でしょうが。
これのどこが『伝説の魔槍』に見えるんだか。
んで、(もちろん、父上の教えに従ってこてんぱんに叩きのめしてから)問い詰めると、そいつら揃って――
「鷹羽の当主さまといえば、『可憐な姿と鈴ふる声、市井の幼子ほどの小さきお方、しかし戦う姿は鬼神も逃げ出す勇ましさ』だと聞いたので、てっきり――」
とか言ってたのね。
まぁ最近はわたしたち姉弟の背が父上より遥かに高くなっちゃったから、間違われることは殆どなくなった……んだけど。
一難去ってまた一難というか。
新しい悩みが、出来てきちゃったのよね――。
続く