「名は、『忍』。刃の下に、心ありで――しのぶちゃんや。そう呼んだって」
頬に触れる、暖かくて大きな掌の感触。
意思の強そうな真紅の瞳。
どうして、この人はこんなに淋しそうな目をしているのだろう。
――俺に似ぃひんで、ホンマに良かった。
耳からでは無く、心に直接伝わってくる声。
この人は誰だろう。
(そんな、泣きそうな顔をしないで)
けれど、伝えたい想いは言葉にならない。
イヤだ。
頬に水の感触が伝う。
「ああ、すまんの。びっくりさせてもうたんか――この子、頼んます」
(待って、行かないで!)
手を伸ばしても届かない。
声も言葉にならない。
わたしに出来るのは、言葉にならない想いをただ、叫ぶことだけだった。
「そんなに泣かないで、運命の子」
先程私に触れていたのとは違う、少し小さな白い手。
声も、高くて柔らかい。
「貴女が地上に降りるまでの、ほんのチョットの間だけど。アタシが、守ってあげるから――」
ふわふわとした羽の感触がくすっぐったい。
先程の大きな手の感触とは違うけれど、柔らかで暖かな腕の感触。
わたしは、眠りに落ちる。