そうして、月が変わり。
精進潔斎を済ませた透は、『交神の儀』の為の祈りに必要な祝詞の書かれた書付を持って、わたしの部屋へとやってきた。
嫌だと告げると、透の眉間に刻まれた皺が一層濃くなった。
「はぁ? 意味わからんわ。俺に交神行くなて。そら、相手は忍ちゃんのお母さんとは別の神さんやけど、力考えたらしゃあないやろ」
「そういうことを言ってるんと違う。透ちゃんが『交神』行くのが嫌なんや!」
討伐から帰ってくる度、頬を染めて安否を気遣うイツ花に対する、透の態度を見ていて、わたしにも察しがついてしまった。
透は、こと商売に関しては誰よりも人の心の動きを察するのが早い癖に、女の子からどういう風に見られているか、全く解っていないのだ。
これ位直接的な物言いでなければ、伝わる筈が無い。
「じゃあ何か? 舞子さんにずっと操立てえ言うんか?」
「お母ちゃんに操立てろやなんて言うてるんとちゃうわ!」
はぁと溜息をつき、目を伏せた透を見て……やっと解ってくれた――と、期待したわたしが浅はかだった。
「あのなあ。――ずっとふたりで討伐行ける訳なんかあらへんやろ。わかってんのか、忍ちゃん。自分、先月大怪我したばっかりやろがや」
返って来た答えは、わたしの予想を超えてずれている。
こうなればもう、わたしに言えることなんて一つしかない。
「嫌なもんは嫌や!」
わたしの言葉を聞いて、透の表情が一瞬だけ険しくなるが――すぐに、諦めたような、投げ遣りな表情に変わる。
「せやったら、忍ちゃんが交神行くか? 俺は別にどっちでも――」
「知らんわ! 透ちゃんのアホ!!」
パン、と乾いた音がする。『どっちでもいい』なんて絶対に聞きたくなかった。
思いっきりひっぱたいたので、透の左頬に赤い手形がくっきりとついているのが見えた。
「痛ったー……って、忍ちゃん、どこ行くねん!」
「透ちゃんのアホ!! ついて来んといて! 透ちゃんなんか、大っキライや!!」